第24話

 白ビルの一室にいた敵の狙撃手は銃を放り出し足から血を流しながら苦しんでいた。そこには銃口から煙が出ているMP5を構えたロベルトとアルバートが立っていた。
「動くな。お前を拘束する。アルバート」
「はい」
 アルバートが懐から拘束具を出して敵の狙撃手の両手首にそれをかける。ロベルトは拘束具がかけられたのを確認すると通信機を取り出した。
「少尉、こちらロベルトです。PSG−1を持った男を拘束しました」
『本当か? よくやってくれた。ダニエル=ゴードンは?』
「今現在部下が捜索しています。もう少しお待ちください」
 ロベルトはそう言うと狙撃手の腕をつかんでビルの出入り口へと向かっていった。

「アルバート、そこに落ちている狙撃銃を持ってきてくれ」
「あ、はい」
 狙撃手は足を引きずりながらロベルトにつかまれて部屋を後にする。アルバートは床に落ちてあるPSG−1を抱えて部屋を後にする。しかし彼はこのビル内にあるであろうある物が気になっていた。せめて「アレ」だけでも、そう思ってアルバートは部屋を出た。そして「アレ」を探すために白ビルの探索を始めた。

 CUSの銃声による大合奏は終わりを迎えていた。結果は苦戦しながらも支援部隊が勝利を収めていた。だがその被害は大きくロベルトを含めて二〇人いた隊員は八人まで減ってしまっていた。弾薬もほとんど残っていない。DDCのメンバーも大部分が射殺され、生存しているのはわずか三人だった。生き残ったDDCのメンバーは拘束器具を装着され、それを隊員の一人が見張っている。残りの隊員はDDCのボス、ダニエル=ゴードンの捜索にあたっていた。白ビルの中では先ほどロベルトと一緒にいた隊員一人と他から合流した隊員二人が残り少ない銃弾が装填されているMP5を構えて捜索している。隊員達はある一室のドアの前で止まった。表札には「警備室」とある。
「開けるぞ。いいな?」
 一人が言うとその場にいる全員がうなづき銃を構えた。一番ドアに近い隊員がドアノブに手をかける。ゆっくり少しずつ回していく。そして限界まで回しきると思い切りドアを引いて開ける。だがドアを開けた瞬間と同時に銃声が聞こえた。ドアを開けた隊員が胸に被弾した。警備室の中には耳にいくつものピアスをつけた短い金髪の男がいる。他の隊員がMP5をその男の足に向けて発砲した。その銃弾は的確に男の右の太ももを撃ちぬき男は手に持っていた拳銃を放り投げ苦しんでいる。
「足を撃たれて痛いのはわかる。だから動くなとは言わない。だが手は頭の後ろで組んでもらおうか」
 男、ダニエル=ゴードンは隊員の指示に大人しく従った。彼の手に拘束具が装着され、ダニエル=ゴードンは確保された。それを確認した隊員が無線機を取り出した。

「隊長、DDCのボスのダニエル=ゴードンの確保を完了しました!」
『よくやった! スミス少尉には私から連絡をしておく! 取りあえずダニエル=ゴードンを連れて白ビルから退去するんだ。私達もすぐに行く!』
「了解です!」
 隊員は足を引きずりながら歩くダニエルの周りを囲み銃を突きつけながら白ビルの出口に向かっていった。

 別の部屋にいたロベルトは無線機でスミスに連絡を入れた。
「少尉、部下からDDCのボスであるダニエル=ゴードンを確保したとの連絡を受けました。あとは少尉が奴を狙撃すれば任務完了です」
『……』
 無線機の向こう側から声が聞こえてこない。一体どうしたのだろうか?
「少尉、どうされましたか?」
『……勝手な話だがそのまま護送車に奴を連行してくれ。狙撃はしない』
 スミスの言葉にロベルトは一瞬自分の耳を疑った。あのスミスが任務を放棄した事に驚きを隠せないでいた。
「何を言っているんですか少尉! アルバートの言葉を真に受けたのですか!? ダニエル=ゴードンを狙撃するのが少尉の任務のはずです! それなのにそれを……」

『命令だ! 今すぐにダニエル=ゴードンを始めとしたDDCの生き残りを護送車に連れて行け! 訳は後で話す……』
 ロベルトはそれ以上何も言うことができないでいた。呆然している間に無線機の向こう側から声が聞こえなくなった。どうやら切られてしまったらしい。

 赤ビルの中ではスミスが壁に背中をつけてしゃがみ、大きなため息を吐いた。これでよかったんだ、そう何度も自分に言い聞かせながらスミスは銃にセーフティをかけた。任務を放棄した狙撃手、今回に限って敵の命を奪わなかった。

 だがそれが彼にとってとても楽だった。狙撃手になる前は当たり前だが誰も殺さなかった。人を殺さないという事がどれだけ精神的に楽なのか、やっとスミスはそれがわかった。

 重い腰を上げて、彼もまた赤ビルを後にしていった……。