第11話

 暗い森林の中にいくつかの光が見える。この光は支援部隊の正式装備品MP5に装着されているフラッシュライトのものだった。それ以外の明かりは何も無い。隊員達の足音の他には時折草むらからこの森林地帯に住んでいるのであろう野生動物の蠢く音やが聞こえる。木々からは目には見えないが梟の鳴き声も聞こえてくる。
 スミスは空のケースを輸送車両に置いてきていた。他の隊員同様に銃を装備し、インカムを頭に装着している。M24SWSに使用する専用銃弾もスミスは忘れずに持ってきていた。他にもスミスはライフルに装着するスコープとは別に特殊な装備を用意していた。一つは熱源を探知して視覚化するサーマルゴーグル、もう一つは光を増幅して視野を確保するナイトビジョンゴーグル、スミスの頭には後者のスコープとインカムか装着されている状態にあった。前者のサーマルゴーグルは銃弾が入っている専用のパックに入っている。
 森林地帯に足を入れてからおよそ二〇分、まだCUSへの入り口らしきものは見えてこない。歩きながら隊員の一人がぼやいた。
「はあ、俺も輸送車両に待機していたかったな」
 それを聞いたもう一人の隊員が言った。
「ここに来る前に決めた事なんだからしょうがないだろ。ちゃんと辺りを警戒していないと隊長に怒られちまうぞ」
「へーへー、わかりましたよ」
 この二人の会話の通り、運転手だけは車を見張るためにCUSには向かっていなかった。
 すると突然後ろの方で少し大きい物音がした。草むらが動く音だ。スミスを含めた隊員全員が一斉に音がしたほうに銃を向けた。音がした所にライトの光が集中している。光があたっている部分はまだ何かが動いている。そして突然その草むらの中にいた何かが飛び出してきた。傍にいた隊員はとっさに腕で顔を覆い隠して防御体勢をとった。しかし後ろからは他の隊員の失笑する声が聞こえてくる。
「何恐がってるんだよ。今のは梟だよ、梟」
 それを聞いた隊員は顔から腕をどけて安堵のため息を吐いた。
「な、何だ……。脅かしやがって……」
 隊員は銃を構えたまま後ろを振り返った。そこにはライトの光によって白くなった人間の顔がすぐ傍にあった。
「うわあああああ!!!」
 その叫び声を聞いた他の隊員が再び一斉に銃を構えた。
「なんだよ! 自分でライトをあてておきながら叫ぶんじゃねーよ!」
「う、うるせー! お前だって何でそこにいるんだよ!」
 すぐ後ろにいた隊員にライトがあたって白くなっているだけだった。そこに隊長のロベルトが叫んだ隊員の方に向かってきた。
「何をやっているんだ! 遊びに来たんじゃないんだぞ馬鹿者が! もっと気を引き締めろ!」
「す、すいませんでした!」
 その隊員は冷や汗をかきながらロベルトに謝罪した。ロベルトはそのままスミスの所に向かっていった。
「どうした隊長、大丈夫だったか?」
 少し心配そうな表情をしてスミスは尋ねた。
「問題ありません。単なる部下のヘマですよ」
「そうか。じゃあ先を急ごう」

 隊員達は前進を続けた。道なき道を歩き続けていると地形が変わり始めてきた。道が二手に分かれているのだ。向かって右側には高台らしき所に続いている道とその下を通っていると思われる道、左は壁によって視界が阻まれている。
「私の隊と副隊長の隊に分かれて行こう。私の隊は向かって右側に、副隊長の隊は向かって左側に進んでくれ。スミス少尉は我々についてきてください。各自、警戒を怠らないように」
 隊長が言い終わると彼らは行動を再開した。ロベルト隊長の班が高台への坂道に差し掛かると再び動きを止めた。
「さらに二手に分かれよう。少尉、私と一回離れて隊の指揮をお願いします。少尉の班は高台を登ってください」
「わかった。気をつけろよ」
 スミスの班は高台へと続いている坂道を登っていった。高台には草が生い茂っている。スミスが高台から下を覗くとロベルト隊長の班が確認できた。彼らの進む方角をスコープを覗いて確認した。
「あれは鉄柵か?それにコンクリートの壁……。臭うな、先へ進もう」
 スミスは段差を降りていく。隊員達もそれに続いていく。そのまま前を進んでいくと最初に分かれた隊員達とも合流した。奥にはダンボールが散乱している。そしてその先には重厚な鉄でできている扉がスミス達の前にあった。
「おそらくこれです。地下施設、CUSへの入り口と思われます、少尉」
 ロベルトがスミスに向かって言った。だがこれほど重厚な扉をどのようにして開ければいいのだろうか?
「だが隊長、どうやってこの扉を開けるんだ? これではおそらく爆薬を使っても無駄だぞ」
「大丈夫です。メイソン長官から鍵を預かっています。長官が今回の作戦を政府に伝えた結果、彼らも快く鍵を貸してくれたみたいですよ」
 そう言うとロベルトは懐から銀色のカードキーを取り出した。彼は鉄の扉の前に歩いていった。扉に黒い線のようなものが入っている。おそらくカードキーを読み込むためのスロットだ。ロベルトはそこにカードキーを差し込んだ。すると電子音が聞こえた後、その重厚な鉄の扉がゆっくりと開いていった。
「さあ、エレベーターに乗ってください。着いた先がCUSです」
 スミスを含めたその場にいる全員がエレベーターに乗り込んでいった。全員が乗り終わり、エレベーターの扉が閉まり動き出した後は誰一人として口を開かなかった。
重苦しい空気がその空間を支配した。

 縦に伸びている暗いトンネルを鉄の箱が下りていく。終わりがなさそうに思えてくるほど長い暗闇のトンネルの中を……。