第10話

 午後七時、空はすっかり暗くなっている。その空の下にある軍の基地に四台の兵員輸送車両が待機していた。車両の傍にはMP5と防弾装備で完全武装された隊員もいる。そこにM24が入っているケースを携えたスミスが現れた。隊員は全員スミスに対して敬礼をする。
「楽にしてくれ」
 スミスがそう言うと隊員は手を後ろに回した。
「これからCUSに向かう。各自、武器装備の点検は済んでいるはずだ。全員車両に乗り込んでくれ」
「了解!」
 隊員達は次々と兵員輸送車両に乗り込んでいった。スミスも狙撃銃が入ったケースを持って車両に乗り込んだ。だが一つ気になった事があった。それは車が四台もある事だった。この輸送車両は一台に一〇人 ―少し無理をすれば一二人は乗れる― が乗れる割合だ。つまり二台あれば十分に全員が乗れる事になる。車を運転しているのはこの部隊の隊員ではなかった。上層部からの指示を受けて同行している兵士だった。スミスは隊長のロベルトに自分が気になっているこの事を言った。
「ロベルト隊長。どうして四台も輸送車両が必要なんだ?隊員を乗せればいいだけだから二台で十分なはずだ」
 ロベルトはスミスの方を見て不思議そうな顔をして言った。
「DDCと交戦をして敵側に生き残った人間いた場合は射殺せずに連行しろとの指示を受けています。メイソン長官から言われた事なのですが……。少尉、ご存知なかったのですか?」
 スミスはため息を吐いてから言った。
「そ、そうか……。わかった。すまないが目的地に着くまで仮眠をとりたい。ここのところ十分な睡眠をとってないんだ。目的地に着いたら起こしてくれないか?」
「わかりました。任せておいてください」
 スミスは腕を組んで頭を落として目を閉じた。

「スミス少尉、L・FOREST地帯に着きましたよ。ここからは歩いての移動です」
 スミスはその声で目を覚ました。頭をあげて声がした方を見た。だがそこにいたのはロベルト隊長ではなかった。スミスの狙撃によって命を落とした、ライアン=ロスバーグ議員だった。頭からは血を流しており、着用しているスーツとシャツも赤く染まっている。スミスはそれによって思わず絶叫した。なんとかその場から逃れようと床を這いつくばって移動する。だがその場にいたのはスミスの狙撃によって命を落とした人間ばかりだった。その内の一人が血まみれの手をスミスの方に伸ばしていく。

「や、やめろ……! やめてくれー!!」
 スミスは手を強く払いのけて回りを見た。その場の光景は何の異常さもないものだった。車の中には今回の作戦で行動を共にする支援部隊の隊員が乗っている。隊員の一人が手を押さえている。
「い、今のは夢か……? それとも幻か……?」
 スミスは息を荒くしている。冷や汗も大量にかいているそこにロベルト隊長がスミスの方に近づいてきた。
「だ、大丈夫ですか、少尉?いきなり私の方を見て悲鳴をあげるんですからびっくりしましたよ」
 呼吸が整わないうちにスミスは心配するロベルトの方を見た。ロスバーグ議員と見間違えられその上急に大声をあげられたら誰でも驚く。
「ああ……。すまない。さあ、CUSに向かうぞ。全員準備は万全だな?」
 隊員の勢いのある声が車内に響く。
「よし、じゃあ車を降りるぞ」
 スミスがそう言うと隊員達が車両から降りていく。スミスも車両から降りて辺りを見回す。

 不気味に静まり返っている森林がそこには広がっている……。