第6話

 遥彼方の地平線まで見える荒れ果てた大地の中をはしる鉄の道の上を列車が走ってゆく。その列車はサハルを出発してから五分ほどである。ダリはその列車の中で母親が渡してくれたバスケットを開けて中に入っているおにぎりを出した。ダリはそのおにぎりを食べるのを少しためらった。だがせっかく母親が作ってくれたおにぎりである。ダリはおにぎりを口に入れ、米を噛み切り、飲み込んだ。
「……しょっぱい」
 何故かはわからないが、ラミはおにぎりを作るのがとても下手なのである。不必要なまでに大量の塩を使うので米の味は消されてしまい、塩の味だけが残ってしまう。口の中が辛くなり、喉が次第に渇いていく。ガチラの駅まで我慢すれば水飲み場があるので、ひとまずはそこまで我慢することにした。
 約一〇分後、隣町のガチラの駅に到着した。ホームは一面一線であり、サハル方面の列車、その逆方向に向かう列車ともに同一の線路とホームを利用する駅だ。
 ダリは列車を降りて水を飲みに水道のある場所へと向かった。そこで塩によって乾いた喉を潤した。それから駅舎を出て町中へと足を踏み入れていく。ガチラの町はサハルとは違った活気に溢れている。市場もたくさん存在するのだが、それ以上に大人が遊ぶような店舗が存在するのだ。決して大きいとは言えないが、この町にはカジノも存在する。夜になると、治安がよいとは言えなくなってしまう時もある町だ。そのような町は何人かの民兵と警察機構によって守られている。民兵と警察はこの町では協力関係にある。口元にも布をかぶり、銃のグリップを片手で持ち歩いている。その銃こそダリの悪夢に出てきた武器、AK−47である。ダリはこの町に同じようなお使いで何度か訪れている。そのため銃を見るのは初めてではないのだが、それでも人を殺せる道具をダリは恐がった。
 町中を歩いていき、いつもの店の前までやってきた。路上にあるその店には衣類や簡単な装飾品が布の上に並べられていた。主は煙草を吸いながらずっと足元を見ていたが、ダリが近づくとその顔をあげた。
「いらっしゃ……、おお坊主! 今日もお使いかい?」
「うん、きょうはコレをおねがいします」
 やはり気の抜けた声でダリは店主と会話をする。その異変に気がついた店主はダリに声をかける。
「どうしたんだ坊主。今日はやけに元気がねえな? 若ぇんだからもっと元気ださなきゃ駄目じゃねーか!」
「うん……」
「まあ何があったか知らねえけどよ、母親とかに相談してみれば少しマシになっかもしれねえぞ。じゃあ今回の売り物を見せてもらおうか」
 店主はダリから織物を受け取ると真剣な目つきになって品定めを始めた。
「うーん……。今回のも上物だな! このできだとこれくらいの金かな?」
 そう言うと店主はカバンの中からお金を出してダリに渡した。いつもより多めの額になっている。
「こんなにいいの?」
「おうよ! それを早くママのところに持って帰ってやんな!」
 ダリは笑顔になって店を後にしようとした。
「坊主! 何か悩み事があるならちゃんと相談しなきゃ駄目だぜ! ママに相談しにくい事だったら俺でも喜んで相談にのるかなら! 遠慮はなしだぜ!」
 ダリは笑顔を店主に見せて店を後にした。そして駅に向かうまで考え事をした。昨日ダリが帰宅した時にラミはお金に困っているような発言をしていた。そして学校から真っ直ぐに帰らずに遊んでいるような子供の学費なんて払う必要ない、こうも言われていた。
 駅に着いた時、ダリはある事を母親に言おうと決めた。きっとこれを聞いたら母親は悲しむ、だがこれが自分にとっての親孝行とダリは考えた。ダリはサハルへの切符を購入し、ホームで列車を待った。