第4話

 一体ここはどこなのだろうか? 見たことのない町だった。町は激戦区を化してい た。所々で爆発が起き、息を引き取っている人間だったものが累々と横たわってい る。その体の状態は「悲惨」という言葉では表せられないほどだった。ある者は首か ら上が存在しなく、ある者は手足のいずれか、またはその両方を失い、そしてある者 は内臓がむき出しになってしまっている。流れ弾が風切音をたてながらすぐ横をかす めていったのも一度や二度ではない。
 民家や施設の壁は蜂の巣になっている。もしくは粉々に破壊されている。機関銃の 一撃、砲撃の生々しく恐ろしい爪痕……。全てが壊されている。それは人、建物、か つては美しいであったろう風景、そして思いや活気などの見えないものを含めた、本 当の意味で「全て」が壊されていた……。
 そんな状況の中、ダリは呆然として立ちすくめていた。そして少年は自分が恐ろし いものを手にしている事に気がついた。

 銃だった

 木が一部に使われている銃、それを持つ手とそれ自身は何者かの血によって汚れて いた。自分の血か、それとも他の誰かのものなのか……。ダリは恐怖のあまりに目を 見開いた。今にも眼球が飛び出してきそうなほどに。
 すると後ろから何かを引きずるような音が聞こえてきた。全身が血で染まった男が ダリが持っているものと同じものを片手に持ちながら足を引きずっている。怒りに満 ちた表情でダリに近づいてくる。
「お……俺たちが……」
 ダリは逃げ出そうとするが、恐怖のあまりに足がうまく動かない。足に力も入らな い。引きずる音は次第に大きくなってくる。男は唇を震わせながら言う。
「俺たちが……一体……」
 そして男は少年に向けて銃を構えた。
「俺たちが一体、何をしたって言うんだ!」
 その男は銃の引き金をゆっくり引いていく。ダリは恐怖に満ちた悲鳴をあげる。

 そしてダリは床から勢いよく起き上がった。そこはいつもの自分の部屋だった。ダ リの顔からは大量の汗が流れ出ている。それは床のシーツをぐっしょりと濡らしてい た。
 とても嫌な夢だった。戦場にたちすくみ、そして殺されそうになる夢。それだけで なく、もしかしたら夢の中で自分は誰かを殺していたのかもしれない。血に染まった 手を銃、自分の血ではないような気がしていた。どうしてこんな夢を見たのだろうか ……。ただの悪夢ならいいのだが……。
「ダリ、もう朝だよ! 早く起きなー!」
 台所の方から母親の元気な声が聞こえてきた。ダリは着替えて母親のいる台所の方 に向かっていった。
 テーブルの上には既に朝食が用意されている。パンと昨日のスープ、リンゴに牛乳 といったものだ。
「なんか大きな声を出してたけど、怖い夢でも見たのかい?」
 やはり大声を出してしまっていたのだ。別に夢の内容を言ってもよかったのだが、 なんとなく言いたくなかったので、ダリは内容は言わないでおいた。
「うん。とてもこわいゆめだったから……。」
「まあ夢でよかったじゃないか! 怖いことは夢の中だけが一番だよ!」
 確かにそうだ。だがあの夢は妙に現実味がありすぎた。間違いなく、あれは夢だっ た。だがそれなのに実際にあの場にいたような雰囲気があった。一体どうしてなのだ ろうか……。
「ごちそうさま!」
「じゃあ今日も元気に学校に行っておいで! 帰ってきたら昨日言ったお使いをお願 いね」
「はーい! じゃあいってきまーす!」
「気をつけるんだよ!」
 ダリはカバンを手にして家を後にした。ダリの頭の中には未だに夢の事が浮かんで いる。とても嫌な予感がしてならなかった……。