第1話

  十月、風がひんやりと感じ始めてくる季節。今宵は満月が闇で染まっている寒空を明るく照らしている。その十月のアメリカのある一夜、時刻は午前二時、この辺りは民家がなく、ただでさえ静かな場所が真夜中になるとさらに静かになる。その静まり返っているはずの工場地帯にある廃工場の前に車が二台停まっている。そして工場の中には十人ほどの人影が……。
「待たせたな……。早速だが金を拝見させてもらおうか」
 ガランとした廃工場内で二つのマフィアが取引をしている。ある男がアタッシュケースのロックを外して中身を見せる。大量のドル札がその中には入っていた。
それを見た男は安心した様子で自分の側にいるアタッシュケースを持っている男に向かって指を鳴らした。それを聞くと男はアタッシュケースを開けて中身を見せた。真空パックされた白い粉が大量に入っている。 「見ての通りの上物のブツだ。DDCからの直輸入品だからな」
「……確かに品質のよさそうなブツだ。それじゃあ始めようか……」
 アタッシュケースを持っている男は二人とも再びケースにロックをかける。そして二人はゆっくりと近づいていきお互いの持っているケースを相手に渡し、受け取る。
それが終わるとお互い離れてそれぞれのボスにアタッシュケースを渡す。
「このブツは最高だからな。これがあれば金が腐るほど手に入る!今回もいい取引をさせてもらった!ありがとうよ!」
 そう言うとボスはお互いに握手をする。その時だった……。工場の窓ガラスに一つの穴が開いた。すると金を相手に渡したほうのボスが頭から血を噴出しながら倒れた。
「なんだあ!!」
 その声と同時に工場内にいる全員が穴の開いた窓ガラスに向けて武器を構える。しかし窓ガラスを見ても誰もいない。だが目に入ったのは七〇〇メートルほど離れている高層ビル。
「あそこだ!車に乗ってあのビルまで行って殺してこい!」
 ボスがそう言うと全員が表に停めてある車に向かって走っていく。

 高層ビルの屋上からは火薬銃を撃った後に残る爆音の余韻のようなものが空に響き渡っていく。屋上には狙撃銃M24SWSを持った全身を黒に包んだ男がいる。
「午前二時三分、任務完了」
 男はその銃から今撃った弾の薬莢を排出した。排出された薬莢は短い空中円舞を行った後、屋上の地面に落ちて金属音をたてる。その薬莢を黒い手袋で包んだ手で拾ってポケットの中に入れる。そして狙撃銃をケースに入れてビルの屋上から去っていった。

 二分後、車で高層ビルに向かっていたマフィアは高層ビルの入り口の前に到着した。一人がドアを開けようとしたが中から鍵がかかっている。
「チッ……!」
 男は拳銃を取り出してドアの鍵を撃ちぬいた。それによって開けられたドアからマフィア達が次々とビルの中に入っていく。
「屋上へ行くぞ!お前らは階段で行け!逃げ道をなくすんだ!俺達はエレベーターだ!後はここで待っていろ!」
 そう言ってボスはエレベーターで屋上を目指した。鉄の箱が屋上に向かって上がっていく。それに乗っているマフィア達は銃を取り出して戦闘態勢に入る。そしてエレベーターが屋上の一階下のフロアに到着し、マフィア達は屋上へ通じる階段に向かって走っていく。その階段を上っていき、ついに彼らは屋上に辿り着いた。一人の男がドアノブにゆっくりと手を添えて少しだけ扉を開けた。するとその男は次は勢いよく扉を蹴って全開にさせた。
 銃を構えながら屋上を探索する彼らだが既に人影がない。ボスは一階にいる手下に連絡を試みる。だが返事は誰も通ってないというものだった。ボスは怒りに震えながら空に向かって叫んだ。
「ちくしょうー!俺達マフィアをなめやがって!!」
 ボスは武器のサブマシンガンを地面に向けて乱射し始めた。銃声が夜空に響いていく……。